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政治・経済・社会について考えを綴る、とある東大生の雑感ブログ。

長時間労働是正について考えてみた

安倍総理大臣を議長とする「働き方改革実現会議」が、雇用環境の改善と成長戦略に関して話し合う有識者会議を重ねています。

働き方改革実現会議

 

議事録をざっと読んでみると論点は実に多岐に渡り、それぞれが互いに関連しあって複雑であることが分かりました。

特に重要な論点とされているのは同一労働同一賃金長時間労働是正のようです。

 

みなさんご存知のように、日本では多くの労働者が長時間労働・残業を当然として暮らしています。最近は過労死自殺などの事件が注目を集め、にわかに議論が盛んになってきました。

長時間労働を是正することによって、例えばワークライフバランスが取れるようになったり健康増進につながったりし、結果的に「生産性」向上につながるという期待も持たれています。

「生産性」というのは一人当たりが生み出す付加価値の大きさを指しているという認識です。

 

さて、私も周囲で目にする残業漬けの生活に違和感を感じ、できることなら軽減すべきだとは思っています。

しかし、単純に労働時間を削減するだけでは個人レベルでは一時的に望ましい結果をもたらす一方で、社会全体として望まない結果を生む可能性があります。

 

その主張の根源には、人間ひとりの生産性の大幅な向上というのは基本的に難しいという考えがあります。

 

まずはこの仮定の下、一人一人の労働時間を削減してみましょう。さらに、現在の仕事の「質」を維持するとします。

そうした場合、社会で生産される財・サービスの量は減少せざるを得ません。減少した場合、需要過剰になるわけですから物価の上昇が起こります。賃上げがどれほど見込めるかによりますが、残業を無くしたこともあって所得水準は一般に落ち、生活が苦しくなるかもしれません。

 

次に生産量を維持しようとしてみましょう。労働時間を削減するわけですから、仕事の質、ひいては提供される財・サービスの質が下がることになります。これは実はアメリカやヨーロッパの姿と重なるところがあります。

実際に一時欧州に居住した経験から言えるのですが、日本のありとあらゆる商品やサービスは極めて洗練されています。

高いレベルの物を供給すると消費者の目が肥え、さらに供給側は磨きをかけなくてはならない。こうして競争的市場環境と日本人の特質が相互作用し、今の長時間労働を作り上げたのかもしれませんね。

今の日本の消費者は、おそらく低品質・低レベルのサービスを受けることは許さないでしょう。

 

若しくは、生産性を維持するためにロボットや人工知能を導入するかもしれません。これが企業の最も選びそうな選択肢です。

この場合、消費者に不満が起こることは取り敢えずないでしょう。むしろ商品の質が向上して喜ばしいところでしょうか。

しかしこの道を選ぶというのは、所得レベルで中下層に所属する人の雇用を奪うことを促進するだけに終わり兼ねません。

一部に人工知能や自動機械を導入するくらいなら、可能な限りすべて置き換えた方が好都合だという経営判断が下されがちです。そうすると今まさにアメリカで起こっているような、「忘れられた労働者」問題を一気に噴出させてしまう危険があります。

徐々に単純労働や事務作業が代替されていくなら、(再)教育の推進によってある程度次善の策を講じることができますが、この場合は変化が急速になる懸念があります。

 

ここで述べたのはあくまで一般論であり、個々の企業レベルでは働き方改革に成功している事例もあるようですが、長時間労働と日本の市場水準の高さにはある程度逆相関が存在していることを認識する必要があるのではないかと考えています。